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2008年6月24日火曜日

53. CとSのR


 忠実なハチ君がここ掘れ云々とかやると、まだまだ出てきそうではあったが、今日のところは正におあずけ。リーダーの一計で、手が回らない分は干潟奥に退避させるなどしてあるが、収集数量が前月よりも減じたのはまぁよしとしたい。十から二十の間のゴミは、大小スプレー缶、各種ストロー、個別包装類(小袋)、紙パック類、食品用途外の容器&袋類といったところ。白物のプラ容器は、用途の別が付けにくいものもあるが、明らかなのは納豆、豆腐、そして、
 「何で茶碗蒸しの容器が棄ててあんだか」
 「え、それってお茶碗じゃないでしょ。正しくはプラ容器蒸し」
 「じゃプラ容器蒸しの容器? って、櫻さん、あのねぇ」
 「どうも千歳さんと喋ってると茶番になっちゃうから困るのよねぇ」
 茶碗と来れば茶番で返すのが櫻流。二十代女性陣はこの際無視!の構えだが、小梅は一人でクスクスやっている。六月はそんな小梅を見て、満面のスマイル。茶番も捨てたものではない。
 袋詰めはまだ仕掛(しかかり)中。千歳はプラ容器をひとまず置いて、スクープネタを撮り蒐(あつ)めることにした。バッテリーなど序盤の重量系は現場で押さえたので、今はその他の袋入り前の品々が中心。ペットフードの缶、クリアファイルとバインダーのセット、ヘルメット... 折り畳んだブルーシートに至ってはまだ使えそうな品である。
 「あ、隅田さん、こいつも」
 八広が手にしているのは赤い筒。
 「て、これもまだ使える系?」
 以前ほどデレデレした観はないが、彼氏にしっかり寄り添っているルフロン嬢がチャチャを入れる。
 「あん? 発煙筒でござんすか。煙が出たらお立会いーってね」

(参考情報→赤い筒にはご用心

 そう言えばこのお嬢さん、煙とご縁のある女性だった。
 「ルフロン、今日は大丈夫? 煙と来りゃ... あ、業平さんもだ」
 話し振りこそ普通だが、目線は厳しい櫻である。
 「文花さんにもクギ刺されてるし、ここ数カ月は禁煙キープしてるから」
 「あーら、舞恵もよ。今年に入ってからはずっとリフレッシュ中。新ルフロン、いやいや蒼葉ちゃん、新しいってフランス語で何だったっけ?」
 「nouveauネ。ホラ新酒のこと、ボジョレ...」
 「そうだそうだ、ルフロンヌーヴォー。これで決まり。皆さんヨロシクです」
 と、ここで拍手でもして旨く盛り上げておけばいいものを彼氏はついつまらないことを口走ってしまう。
 「ヌーっと現われて、怒るとヴォー、ヘヘ」
 「このぉ、ハチ!」
 仰せの通り、怒ると怖いヌーヴォーさんである。こうなると、発煙じゃ済まない。
 「ハハ、発火しちゃったい」
 六月が見事盛り上げる。だが、弟のそんな絶妙ギャグも姉の耳には届かない。弥生は業平の口から文花の名前が出てくるのがどうにも気になっていて表情が硬くなっている。
 「そっか、イブの先約ってもしかすると...」
 久々にピピっと来たらしく、今度は口許から表情が緩んできた。だが、胸の内は赤い筒状態。我ながら燻(くすぶ)るものを感じずにはいられない弥生嬢であった。

 何はともあれ賑やかにやっている面々だが、発起人はモードが変わってきた。週末のセンター行事、ゴミ減らし協議の件で頭がいっぱいになって来たのである。まずは今回のデータを加算して、現状を整理して、そんでもって現実的な解決策をいかにして導き出すか。そのためにはあと何が必要か。
 「千歳さん、今日は何か変よ。大丈夫?」
 「今度の協議の場でね、話し合いに必要な題材をどう出そうかな、って」
 「今日のを含めて、今までの集計についてはご心配なく。早めにまとめて送りますから」
 「先週もプレゼン用のをあれこれ作ってたんだけど、やっぱ集計次第だね。助かります」
 櫻は一瞬息を止め、真顔で聞き返す。
 「先週って? 正月二日とか三日とか、ってこと?」
 「櫻さんとデートしたかったけど、そんなこんなで連絡しそびれちゃって。失礼しました」
 「なぁんだ。それならそうと」
 一人でヤキモキしていたのが情けないやら、それがまた面白おかしいやら、急に力が抜けたようになってしまう彼女である。だが、すぐにシャキっと背筋を伸ばすと、
 「千歳さん、何て言うかこう理想像みたいのってあるでしょ? それを一例としてプレゼンして、会場からも『こうありたい』って声を集めると、具体策が見えて来ませんこと?」
 「あ、業務プロセス改革でもそういうのあったっけ。As IsとTo Beだ。そうだそうだ」
 櫻の機転に救われる千歳であった。理想像とは言い得ないが、かねてから思料していたことはある。その一つは、上流側、特にバーベキュー広場を発生源とするゴミを抑止したい、である。三月の衝撃、つまりその系統の漂着ゴミが彼を駆り立て、輪を広げつつ、様々なプロセスを派生させつつ、今日の回まで至っていることを考えると、まずはその点を特化させて悪いことはない。勿論、より根源的に、ゴミにならないような商品とは、ゴミを出させないようにするためのサービスとは、といった討議もあって然るべきではある。だが、まずは身近なところから、取り組みやすいところから、であろう。飛躍し過ぎないTo Be(飛べと読めるがそうではない)をプレゼンターがまず示せばいい訳だ。頻りに頷く千歳を見て、櫻はもうひと声かけてみる。
 「週明けには河川事務所からの回答書も来るでしょうから、それを見ながら協議して、また要望出してみるってのもいいかも。いざという時は、愛娘(まなむすめ)作戦?もあることだし」
 「櫻さん、ありがとっ!」
 気が付くと、両手で思いきり握手している。櫻は心の中でこう呟く。「そうそう、その勢い。加速よ加速。フフ」

 真面目なお二人さんが事前協議をしている間に、再資源化系の濯(すす)ぎ、可燃・不燃の仕分けと袋詰め等々は進んでいた。各員は今、思い思いの時を過ごしている。
 フタの収集を終えた六月は、業平の[プラ]チェックを見学しつつ、袋に印字された銘柄を目で追ったりしている。スキャナで読み込めば、メーカー名や品名は蓄積されるものの、感触とか質感といった感覚的な情報は不可能。ところが、この少年の目と手に掛かれば、総合的に記憶されてしまうから空恐ろしい。
 「何つうか、人間スキャナだねぇ。六月氏は」
 「へへ。でも[プラ]の表示んとこに、PPとかPEてのまで打ってあるてのは知らなんだ」
 「その辺も記憶しちゃうってか?」
 「いやぁ、さすがにメモしないと。でもそのうち見るか触るかすれば違いがわかるようになるかも、です」
 「自動分別人間かぁ?」
 「人間だったら手動っしょ?」
 ごもっとも、である。

 新年初リセットを終えた干潟は、幾分水嵩が増したとはいえ、すっかり広々となっている。この清々しさを満喫しない手はなかろう、ということで、女性が二人、さっきから行ったり来たりしている。
 「ねぇ、蒼葉さん、油絵ってその後どうなったんですか?」
 「今月中には審査結果が来ることにはなってる。ま、結果はどうあれ、新作をね、早速描こうとは思ってんだ」
 「今度はしっかり見学したいな」
 「じゃ、塾がお休みの日にでも。晴れた日の午後とか。または雪の日。雨はツライけど、雪なら何とか」
 画家たる者、明確なモチーフがある限り、コンディションを問うたりはしない。そんな態度は、自然と歩く姿勢にも表れている。早くも見習うべきものを見出した小梅はいま一度背筋を伸ばすと、蒼葉を追うようにシャキシャキ歩き出した。

 [プラ]ブラザーズの様子を眺めていた千歳だが、触発されるものがあったか、袋を閉じようとしていた手を止め、俄かに手動分別を始めた。汚れが少なそうなのを選び出しているようだが、何でまた?
 「ちょいちょい、隅田のお兄さん、お探し物か何かですかい? さては、宝探し?」
 弥生ではなく、舞恵がツッコミを入れてくれる。
 「ハハ、たまには見本でも、と思って」
 「そうか、今度の土曜日、それを出そうってか」
 早々とタネ明かしするのは櫻。
 「画像を映し出すつもりだったけど、よりリアリティがあった方が議論しやすいかな、と思って」
 「漂着初物(ハツモノ)ってことでも、とっとくといいことあるかも、スね」
 「さすがはお宝の八っつぁん。初物って言われりゃ、ゴミも捨てたもんじゃないって、そう思えるさ」
 珍しく彼氏を持ち上げるルフロンである。話はここから、一月の予定等々に。
 「で、エドさんの情報誌スケジュールを逆算して、一月の第三週、多分ギリギリで金曜日になりそうなのよ、例の商業施設訪問」
 「あぁ、CSRインタビューの件スか」
 「あれって九月だったかな。エド氏と石島母が話し込んでてさ。CSRがどうのって確かに言ってた気がする。ちゃんとそういう話に発展してたとは...」
 弥生はイマイチ呑み込めていないようである。
 「そのぉ、CSRって何ですかぁ?」
 こう来ると、ついからかいたくなるのが櫻の性分である。
 「Cは、Chitoseさん、SはSakuraさん。RはrelationのR。二人はどうなってんの?ってことよ。ネ、Chitoseさん♪」
 「Rはresearchかな。二人で仲良くゴミ調べ」
 その益々困惑した顔を舞恵に向けてみるも、答えは出ない。
 「おぉおぉ、CさんもSさんも息合わせちゃって。せっかく学生さんが真面目に質問してんのにねぇ。で、何の略だっけ? 八クン」
 「企業の社会的責任。金融機関も例外じゃないよ。ルフロンさん」
 「ホーイ。ま、舞恵はちゃんと考えてるさ。本業優先だろうけど、社会貢献活動だってCSRざんしょ? 支店の皆さんに声かけてクリーンアップってのも良さげだし」
 髪型については何ともいえないが、言動は頼もしい限りの今日のルフロンさんである。

 高度は低いが太陽は南中状態に近づいている。袋を閉じたら、お開き!と行きたいところだが、そうならないのがこの人達のいいところ。雑談はまだまだ続く。
 「それより音楽会さ、次はいつ?」
 「今ここにいる皆さんのご都合次第。決まったらすぐにでも押さえます」
 「皆さんてゆーか、Goさんしょ、まずは」
 「てへへ」
 これには、千歳も櫻も「へ? だ、ったの?」となる。自分達のことで頭がいっぱいだったか、すっかり感度が鈍っていたようだ。
 若い二人が話し込んでいる間、higata@の七人は集い、予定の協議を続ける。
 「んじゃ、多少怪しいけど一月二十日で仮押さえネ」 ルフロンはすっかりその気。
 「Goさんは必須。あとは、あたし、それとリズム隊のお二人が練習量を増やせば、格好はつくと思う」 弥生は誰かさんと一緒ならばそれでいいみたいな口ぶり。
 「何かこうなってくると、どっかで発表会とか。どうスか、Cさん、Sさん?」 Y氏が尋ねる。
 「例の発電機で以って、どこまで音が出せるかがポイント、かな」
 「って、千歳さん、本気でここで演(や)るつもり?」
 この件の言いだしっぺ、舞恵が口を挟む。
 「ま、メーリスに話振ってみるに限るさ。お騒がせエドさんとか、知恵貸してくれっかもよ」
 音楽会にしろ、発表会にしろ、彼女がハマっているのには、明快な理由があった。「自作をどっかで形にしてもらいたいし、流木アート楽器も試したいし、オホホ」
 この調子だと、一月もあわただしくなりそうである。

 六月はいつになくオドオド。対照的に小梅はチャキチャキ。二人の干潟デビュー当時は、これが逆だったような気がするが、いつの間にひっくり返ったのやら?
 「で、姉御の姉御、えっとつまり...」
 「初姉がどしたの?」
 「試験てこれから?」
 「そ、もう家ん中、大変よ。でもね、試験日=誕生日なんだって。だから変に張り切っちゃって。そんでもって合格発表日は小梅の誕生日。何としても受かってもらわないと...」
 七人はいつしか二人を囲むようにブラついている。六月はそんな衆人に気を取られることなく、堂々とあるものを差し出す。
 「勝田とか勝田台は遠いし、御徒(カチ)町ってのも何だし。『信じ行く』で新宿ってのも考えたけど、ちょっとね。そんで思いついたのがこれ。大姉御の合格祈願」
 それは、京成押上線、押上<=>八広と印字された切符だった。これを見て駅名の当人が黙っていよう筈はない。
 「おぉ、そう来たか。でも押上ってのはまた...」
 「押して上げて、末広がりー。いいっしょ」
 「六月クン、ありがと。でも小梅の分は?」
 ちゃんともう一枚持っているから心憎い。

(参考情報→仮想縁起切符

 「いいなぁそういうの。でも、合格祈願の定番は、やっぱ櫻さんに因んだ駅名じゃない? ホラ、京成佐倉とか」
 「ヘヘ、その佐倉って、勝田台より遠いじゃないですか。だから...」
 「青葉もいいと思うんだけどなぁ。そうだ、六月君。桜新町とさ青葉台を結ぶ切符ってのもあるよね。それって何か良くない?」
 「ウーン、桜と青葉の間って、あんまし」
 「あ、そうか...」
 日は照ってるし、無風なのだが、どこかでピューとなるのを感じる一同だった。受験生本人が今ここに居ないからいいようなものの、禁句は禁句。想起するのさえ憚られる。
 「ちなみに、東北新幹線あおば号は1997年10月に、寝台特急さくらは2005年3月に、残念ながら廃止ー、だそうです。ネ、六月?」
 弥生の毒がここへ来て炸裂。だが、毒の情報源は何を隠そう六月君である。
 「あー、それ禁句だったのに」
 「フン、実の姉に縁起物よこさないからよ。バツじゃ」
 千住姉妹は、苦りきった顔でお互いを見る。
 「どっちも廃止てか」
 「ま、痛み分けってことね。お姉様」
 これにて一件落着。ようやくお開きとなった。

 徒歩組は袋を受け持ち、荷台付き自転車を押す二人は、バッテリーを運ぶ。業平はRSBのため、どっちつかずではあったが、いつもの通り再資源化系を担ぎ出す。今回は軽めなのだが思うように進まず往路同様ノロノロ。まだ乾ききっていないグランドには、こうして様々な線と足跡が残ることになる。辺りの空気は暖かながらも小寒らしい凛とした感じを含む。グランドを縦断するのは気分がいいものだが、そんな空気を深呼吸しながらとあらば、さらに爽快、これぞリフレッシュ!である。

 「ではでは、今度は土曜日。新年会もあるし。来られる方はぜひ!」
 「これまでの集計結果の発表もあります。ね、櫻さん?」
 「え、私が発表? 千歳さんでしょ?」
 こんな譲り合いはこの二人だからこそ。舞恵は「またかいな」という顔をしつつも、
 「まぁまぁ。二人でおやんなさいよ。CSRなんでしょ」
 かくして、ゴミ減らし協議の行方はCとSの二人に委ねられることになる。
 バッテリーを降ろすと、舞恵と八広はひと走り。新たに見つけたランチ店へ急ぐ。小梅と六月は、業平&弥生のおじゃま、いやお供をするとかで、一緒にノロノロと商業施設方面へ向かって行った。残るは、千がつく三人。初音がいなくともカフェめし店、という選択肢もあるのだが、姉妹はズバリ千歳宅を指定。
 「何か調達してからだったらいいでしょ。ネ?」
 「ハハ、すっかり休憩場所になってるような。ま、大歓迎ですが」
 「私、千さんとこ初めてね。こんな風にお二人の邪魔するのも初めて?」
 「あーら、少なくとも一回、十一月にあったでしょ。忘れたの?」
 「だって、もうちゃんとキ...」
 お淑(しと)やかな姉は、おてんばな妹の口の前で手を翳し、続きを遮る。
 「やぁね、恥ずかしい...」
 「何それ? 毎日でもどうこうって言ってたじゃん」
 「蒼葉!」
 「あ、そっかそっか。私、川の方、向いてますから。どうぞ、ご遠慮なく」
 妹はどこまでも姉想い、加えて兄(?)想いでもある。今は何分咲きかに進展している二人だが、三十路の恋はつつましくありたいとどこかで思っているのだろう。蒼葉の言葉に甘えるフリして、腕を組んで歩くにとどめている。
 「お互いにペースを尊重し合ってる、そんな感じ... いいなぁ」
 蒼葉は少し距離を置きながら、二人のペースを推し量りながら、でもって、シャキシャキと歩くのだった。

 キ、と来れば忘れちゃいけないのが清さんである。干潟詣でに行くつもりではあったが、途中で「道草」状態。
 「ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ...」
 いずれは喰うことになるのだが、今日のところは同じ道草でも捜索・採集どまり。荒川の河川敷においては限定的ではあるが、先生にかかればこの通り、三種は見つかることになる。そう、明日は七草である。

(参考情報→荒川土手と七草

 「ま、何も明日じゃなくてもな。土曜に振る舞うさ」
 鏡開きの翌日だけに、新年会はモチネタ中心かと思いきや、粥が出てくることがまず確定的になった。だが、掃部(カモン)公の差し入れはそんなもんじゃ済まない。本日午後はひたすら何かに興じるおつもりである。 「おふみさんをビックリさせてやらねぇと」 乞うご期待?!

2008年6月17日火曜日

52. クリーンアップ初め

一月の巻

 仕事納めはしたものの「干潟納め」は叶わなかった。一年の締めくくりとして歳末リセットクリーンアップを実行する手もあったが、不慮の風邪で作業スケジュールが狂ってしまったこともあり、見送り。センター大掃除は予定内だったが、本年最後の土日の過ごし方がいけなかった。彼女と過ごす時間も作れず、サーバのメンテやらバックアップやらに追われることになる。晦日中に何とか仕事納めとなり、大晦日の約束に間に合わせることはできたものの、じっくりスローに過ごせなかったのがどうにも居たたまれない。
 毎日でも彼に逢いたい彼女、そんな気持ちに応えたいのはやまやまな彼。千歳としては、仕事の性格上、自由が利きそうで案外そうでもないという事情あってのスローラブなのだが、やはりプロセス主義者としての何かが邪魔をして、櫻の加速を抑えてしまっているようである。
 本日一番乗りの発起人は、寒々とした干潟を観望しつつ、自身の置かれた複数のプロセスを展望している。一年の計を巡らすには恰好の場であるが、相も変わらぬ漂着ぶりを見ていると、頭は冷静でも心はざわついてくる。おそらくはこのまま年を越してしまったのだろう。一人でも片付けに来るんだった、と悔悟するばかり。だが、年始早々溜息を吐く訳には行かない。またここから、このゴミから何かが始まるのである。
 higata@では賀詞を交歓し合ったりしていたが、実際にメンバー間で顔を合わせるのは今日が最初。それぞれ楽しみにしている筈だが、定刻の十時にやってきたのは、この二人くらいである。
 「おーい、Goさーん、STOP!!」
 「弥生嬢じゃございませんか。Goと呼んでStopって、それシャレ?」
 何故かぬかるみが目立つグランド脇道。ノロノロのRSB(リバーサイドバイク)を停車させるのは訳なかった。
 「あけおめ、でございます。今年もよろしくネ」
 ツッコミを期待していた業平だったが、こう来られては調子も狂う。つい深々とお辞儀してしまうのであった。「苦しうない、面(おもて)を上げぃ、アハハ」 仲良く干潟入りとなる。

 三人で会釈し合っている間、冴えない顔した姉君と上機嫌の妹君は、バスを下車したところである。午後以降の予定を考慮して、今日は自転車ではない。姉妹でゆったり会話するには適したシチュエーションなのだが、
 「年越しは一緒に過ごせたんでしょ。私、ちゃんとその辺も考えて...」
 「まぁね。宅にお招きして、一緒にカウントダウンもできたし、終夜電車に乗って初詣にも行かせていただきましたし。おかげ様で」
 「上出来じゃない」
 「なのにさ、その後はセンター開館日までパッタリよ。昨日だって、文花さん休みで、せっかく二人きりだったのに、何かパッとしないってゆーか...」
 「姉さん、ピッチ上げ過ぎてない?」
 「上げられないから、どうしたもんかってなるのよ。蒼葉はいいわよ、情熱系だから。ちょぴうらやましいかも」
 「あら、私だって。アラサーのゆっくりラブ、いいなぁって。櫻姉見てたら、うらやましくなっちゃったから、それでわざわざ渡仏したのよ」
 姉妹喧嘩ではないのでいいのだが、お互いに刺戟し合っていることは明らか。どちらからともなく足を止める姉妹。上出来の妹はなだめるように言って聞かせる。
 「まぁ、いずれ一緒になるんだろうから、今はそのヤキモキ感を楽しめばいいのよ。今のうちよ、そういうのって。あとは二月十四日が来るまで待つ。その日になったら、一気に仕掛けちゃえ。ネ?」
 「蒼葉...」
 河原の桜はすっかり葉を落とし、寒々しく見えるが、内に秘めたる何とやら、である。春に向け、開花に備え、着実にエネルギーを蓄えている。櫻はそんな木々を見上げながら、再び想いを充填していく。「想い? じゃ済まない?」 晩夏は想いだったが、今となっては愛慕の念だろうか。それは密かに、そして確かに募っていく感情。唇に指を当てる仕草が増えた姉を見ながら、妹も同じように感情の変化を感じ取る。「そういうのもC’est la vie.かな」

 新年挨拶方々、欠席連絡を入れていたのは、南実、文花、冬木の三人。となると、あとはこのカップルが来ないと始まらないことになる。こっちは自転車並走かつ爆走中。
 「八クン、もっと早く起こしてくんなきゃー」
 「まさか、そこまで支度に時間がかかるとは思わなんだから」
 「クルクルルフロンさんで通ってんだから、しっかりウエーブ入れないとダメなんよ」
 「こうやって風切って走ってるうちに、ちゃんとクルクルになるっしょ。これぞナチュラルウェーブ。へへ」
 いつもならバシっとやるところ、さすがに走行中は難しい。
 「んなこと言うから何か無造作風になってきちゃったしぃ」
 「ラブリーな感じでいいと思うよ」
 どこか危なげな二台の自転車だが、グランド脇道に入ると、益々ヨロヨロになっている。誰もいないのをいいことに、堂々とグランドを横切っていた姉妹は、離れたところを抜き去っていくその頼りない二台を見つけ、クスクスやっている。ハンドル操作に集中しているカップルはそれどころではない。当然、姉妹にも気付かない。

 カップルとは言えないかも知れないが、仲良しであることは相違ない。より若い二人組が、後続のバスで到着した。千住姉妹に遅れること十数分。
 「六月クン、干潟来んの久しぶりじゃない?」
 「姉ちゃんと同じ。十月以来だったりする」
 「じゃ崖崩れ現場のその後ってまだ見てないのかぁ」
 「う、崖、崩れ...」
 足取りが重くなってしまった小六男子である。中二女子は笑いをこらえるように先を急ぐ。
 「ほら、早くしないと崩れちゃうかも」
 「あ、姉御ー」
 冬休みラストデーにして、干潟参り初日である。絵日記でもあれば締めくくりのネタとしてはバッチリだろう。だが、二人にとっては宿題も何もない。あるのは宿題を超越した何か、である。

 かくして、十時十五分を回り、メンバーが揃う。
 「では改めまして、皆様あけましておめでとうございます。今日は干潟初め。干潟の方もあけまして、ですね」
 一同恭しく頭を下げ合っているが、櫻のおなじみの弁舌に苦笑いが浮かぶ。嗚呼、越年漂着...とさっきから沈痛な面持ちを引きずっていた千歳だが、これで表情がリセットされる。「よし、干潟もリセットだぁ!」 声には出さずとも、意気は揚々。干潟の方もキラキラし始めた。
 「あーぁ、年が変わっても、櫻姉効果は健在か。すっかり晴れちゃったじゃん」
 「何よルフロン、そんなに雨が好きなの?」
 「この時季はやっぱ雪でしょ。雪が降りゃあさ、ゴミも隠れちゃうから、楽々...」
 周囲は何となく白々としているが、舞恵はハイテンション。クルクルが高じてバサバサになっているもんだから、余計に可笑(おか)しい。
 「私も雪は好きだけど、それって何か違うなぁ。神隠しならぬゴミ隠し?」
 「あぁ、いざって時はハチが居ますから。雪の中を駆け回って、ここ掘れってやってくれるよ、ネ?」
 「ウー・・・」
 ハレ女さんも雨女さんも大笑い。その傍らで蒼葉はふと考える。「白い干潟かぁ。積もったら来てみるか」
 次の画題を得たようである。

 日射に応じて、気温も上がって来た。櫻は前回出し損なったアナログ温湿度計を手にすると、
 「さ、気温は二桁。湿度は五十パー。クリーンアップ日和ですワ。始めましょっ」
 千歳を目で追う櫻。目線が合うとウインクして返す。今更ながら、バキューンである。
 「千兄、大丈夫?」
 「あ、姉御...て、何かまた背伸びた?」
 「伸び盛り、育ち盛り、ですから。ついでにお色気の方も、どう?」
 もう少女とは呼べなくなっているのは事実。ウインクして魅せる小梅にちょっぴりキュンとなる千兄であった。大丈夫とはとても言えない。

 崖の修復に着手し始めたらしく、例の拡幅ルートの方は一時的に通行を止めるための小フェンスが設置されている。下手に崖上を歩かれて崩落するようなことがあっては河川行政の名が廃(すた)るというもの。沽券に関わるから、という理由かも知れないが、やらないよりはいい。応急的ながら、まぁ評価ができる策である。ヨシはすっかり枯れ、くすんだ色を辺り一面に拡げる。夏場のあの勢いは何処へやらだが、これも木々と同じ。次のシーズンを待ち侘びるの図、といったところだろうか。そんな枯れヨシを払いながら、九名はかつてのルート、脇の細径からソロソロと下りて行く。
 「ま、吹き溜まり、あ、潮溜まり?は散々だけど、水際はそれほどでもないスね」
 「でも、流木が邪魔だぁね。大雨って降ったっけか?」
 八広と業平がブツクサやっていると、弥生が割って入ってきた。
 「そう言えば、Goさん。ご自慢の機材は? 吸引機見たかったのにぃ」
 「あれは微細ゴミ担当の小松さん向けだったから。それに論文まとめるのに必要なデータは揃ったとかで、何かもういいみたいな? そんな感じ」
 「小松さんどうこうじゃなくて、むしろ居ない時こそ使わなきゃ。てゆうか、その話、メーリスに流れてないし。何でGoさん知ってんの?」
 「ふ、文花さんから聞いたんだ」
 「何だかなぁ...」
 毒気モードではあるが、やはりちょっと違う感じの弥生嬢である。仮に今日、文花がクルマで機材ともども乗り付けて来たりでもしたらどうなっていたか。ヒヤヒヤが続く業平である。
 そんな二人を余所(よそ)に、クリーンアップ初めはすでに始まっている。居ても立ってもという程ではないにしろ、ここに来ると体が勝手に動いてしまうらしい。まずは大物、というのも習慣化しているせいか、男衆二人は古木の根っこを手始めに、木枠やら角材など木関係を担ぎ出す。業平が加わった後は、より重たい部類、大型シート、ウォーターサーバ、そして、
 「ハハァ、久々登場だねぇ。バッテリー。しかも三つ、いやあっちにもあるから四つか」
 「こいつぁ明らかに不法投棄スね。漂流したらご喝采」
 「これ使えればな。そしたら油化装置とか発電機とかも要らないだろうに...」
 まだ修復前なので、えぐれた崖地が隠れ蓑のようになっていて、ここぞとばかりに置き去られているのである。男性三氏は、処遇に窮しつつも、どこか楽しげに談議している。

(参考情報→越年投棄品

 「やっぱりホイッスルとか吹いてタイムキープしないとダメかしら」
 「まぁまぁ。軽はずみに持ち上げると腰に来るぞい、とか打合せしてるんよ、きっと」
 「Goさん、おっちょこちょいだからなぁ。心配...」
 三氏に対応するように、三人の女性達は手を休めつつも、本日の厄介エリア、干潟中央から水際に向けペットボトルなんかを放っている。大物除去後の干潟面は広さを増し、余程の大波が来ない限りは大丈夫との判断でとにかくポイポイ。こっちも何だかんだで楽しそうである。
 期せずしてお相手不在になっている蒼葉は、上流側に漂着していた(いや放置か?)取っ手付きのプラカゴを活用し、拾ってはポイ、というのを繰り返している。誰が云ったか、干潟をうろつく女というだけのことはある。隈(くま)なく周回し、テキパキと、やはり愉快そうに片付けていく。その所作、その足取り、そして表情。何につけ画(え)になるのがモデルさんである。
 バッテリートリオよりも下流側では、例の新名所、入り江の辺りを少年がポイポイやっている。ここまで深々となってしまったのは、自然の作用・摂理ゆえ、六月が負うものでは毛頭ないのだが、きっかけを与えてしまったことを自責しているらしく、やたら寡黙に一つまた一つ... 見かねた小梅が優しく声をかけてくる。
 「六月クンたら、そんな顔しちゃってぇ。スマイル、スマイル...」
 「だって、まさかこんなことになってるなんて。オイラのせいだ」
 「トーチャンに頼んであるからさ。そのうち元通りになると思う。ダイジョブ」
 「それって、グッジョブ?」
 六月のいつものスマイルが少し戻ってひと安心。
 「積石んとこに引っかかってたんだ。これに入れちゃお」
 紙燈籠を回収した時と同じような発泡スチロール箱を小梅は手にしている。六月は何となく懐かしげにそれを見遣ると、我れ先にとトレイやら小型ペットボトルやらを突っ込み始めた。
 「あ、ズルイ。小梅も!」
 てな感じで箱入れ競争をしていると、二人で同時に手にするものも出てくる。それは当所では常連の配管被覆。
 「何かリレーしてるみたいだ」
 「でも、ヘニャヘニャ」
 形状は兎も角として、バトンを受け渡す、そんな仲というのがよくわかる。これって友達以上?

 今回は誰が何、というのはない。気分次第、手当たり次第、である。それでも各自要領は弁えているので、目に見えてリセットは進んで行く。が、如何(いかん)せん手許が覚束ない。好天かつ適温につき、悴(かじか)んだりすることはないのだが、軍手を外せない以上、ポイポイにも限度が生じてくるのである。中央を覆う漂着ヨシにはなお、フタの類、吸殻、個別包装、小ストローなんかが絡んでいるが、軍手越しではつかみにくい。さらば枝を鷲づかみにしてバサバサやればよかろうとなるも、これが存外にも湿気を含んでいて、軽々とはいかない。何回かに分けてバサつかせるのも手だが、その回数たるや、である。
 さらに良からぬは、服装か。男性陣は示し合わせたように汚れても良さそうなジャンパーだかジージャンだかをヒラつかせているのでまだしも、年改まって最初の顔見世ということもあって、女性陣は相応のファッションに身を包んでいたりする。クリーンアップスタイルにはなっているものの、舞恵はフード付きのブルゾン、弥生はミリタリー系ロングコート、千住姉妹は色違いだが、同型のカジュアルトレンチコート、小梅嬢はボアブルゾンである。
 「初姉のこっそり借りて来ちゃったんだ」
 「多少大きい、っていうくらいね。よくお似合いで」
 「エへへ、櫻さんのも着てみたい、な」
 「ハハ、おませさんネ」
 時節柄、軽装という訳には行かないが、脱いだり着たりが易々とできないというのは考え物。男性諸氏よりも力が入っていた上、気温上昇も手伝って、すっかりポカポカしているシスターズである。動きにキレがなくなってきたとこへ、残ったのは拾いにくい表層ゴミ、というのがここまでの運び。ひとつ衣装替えでもして、ひと息入れるのが良さそうだ。

 スクープ系を追っていた千歳だったが、かくして被写体の変更を迫られることになる。干潟はさながらファッションショーの舞台。
 「千歳さん、どう?」
 小寒だけに、あまり寒くもないため、総員とっかえひっかえで外套の試着に夢中になる。
 「千さんたら、櫻姉ばっか撮って。私も」
 千住姉妹は、タイプの異なるブルゾンを着用中。カメラマンはポーズを指示するでもなく、ただポーとした感じで、シャッターを押している。姉妹の間に、ロングコートの小梅が入り込んでも、これといった反応がない。
 「何か千兄、おかしくない?」
 「まだお熱があるみたいネ」
 「おかしいなぁ。風邪は治ったはずなのに...」
 千歳は、「はい、ポー...」と言いかけて、そのまま停止。ズが出るまでに時間がかかったため、ずっこけ写真になってしまうのであった。
 そんなずっこけ組を他所に、揃いのトレンチコートの二人は、ヒソヒソ話に興じている。
 「いいな、その髪の感じ。あたしも無造作路線で行こっかな」
 「だからさ、これはその、風のイタズラで」
 弥生は、見た目ざっくばらん but 内面ナイーブの舞恵に、ちょっとしたヒントを得たところである。
 「ねぇルフロンさん、意中の人を射止めるのって、ボサボサとかデレデレとか、そんな要素がカギだったりする?」
 「ナヌ? 何か聞き捨てならんなぁ。でも、それって当たってるかも。Bossa de レレとでもしとくか」
 「あ、でもなぁ、キャラ変えるのって、ちょっとなぁ」
 「舞恵のはあんまし参考にならんさ。櫻姉のホラ、咲くlove系がオススメ。秘めた想いを少しずつつーか、ステディ感が大事よね、やっぱ」
 「櫻さんのは相思相愛だもん」
 「いや、そうは言っても、何らかのアクションがないとさ」
 「下手に仕掛けてNGってのはイヤ。また引きこもりになっちゃう」
 「弥生ちゃん...」
 空気の読める(?)カメラマン千歳は、この二人については遠くからシャッターを押すにとどめた。

 業平、八広、六月の各年代トリオは、千歳を羨ましく見ながらも、せっせと漂着ヨシと向き合っている。蒼葉ご用達のカゴを空にして、その上でバサバサ。目立つゴミが引っかかっているのを中心に振り落としている。六月は、カゴに入り損なったのを拾いながら、ファッションショーに視線を転じる。蒼葉に対する萌えモードは封印。年の近い姉御が今は気になる。「何なんだろ、この感じ」 兄貴分は近くに一応いるものの、この手の相談に乗ってもらうにはイマ一つ。
 「あちゃー、これってチャッカ何とかスか?」
 「火が点いたら、燃えーだね。な、六月氏」
 「ハ、ハハ...(やっぱダメだ)」

 とまぁこんな具合でヨシをどかしていたら、冒頭で話題になった雪が出てきた。
 「ハハァ、こりゃまたよく溜まったもんで」
 「飛び散るのをヨシが塞いでたってことスか」
 試着と撮影を終えた一団がゾロゾロと集まって来る。
 「あら、粉雪じゃん」 舞恵は楽しげ。
 「は、早く集めないと」 櫻は物憂げ。
 「いっそ、パーっとやっちゃえば?」
 「ルフロン、あなたねぇ」
 「やべ、ウソウソ」
 「これでゴミ隠しだ、デコレーションだ、て言いたいのはわかるけど、そういうのはね、文字通り『粉飾』なんよ。わかった?」
 一同苦笑気味なれど呆然。愛妹の出番ではあるが、
 「櫻姉ったらぁ...。うまいけど、干潟三周ね」 さすがにフォローしようがなく、指令を出すのが精一杯。ピューとかなったら、それこそパーである。
 今日の課題は、微細ゴミとどこまで対峙するか、である。発泡スチロール粉雪は何とか回収できたが、この調子だとまだまだ発掘されそうな予感。ヨシ束ごと袋詰めするというのもアリだが、袋が足りない。
 「Goさん、やっぱ要るじゃん。掃除機」
 「充電式、早期開発します。でも開発費がなぁ」
 弥生のツッコミが今となっては快い。だが、余裕がないのは事実。舞恵はこれを聞いてポンと手を打つ。「二人とも応援したげるさ。フフ」

 蒼葉の指示通り、干潟を周回していた櫻がここで一旦仕切りを入れる。
 「ま、今日のところは、細々したのは目をつぶるということで。あとで束を奥に押しやるってんでいかがでしょ? 今はまず散らかしちゃったのを拾いましょう。何か水位上がって来たみたいだし」
 千歳は率先して、ポイポイ品を収集しにジメジメ観のある地点に足を向ける。だが、水気をたっぷり含んだ水際は、歩く者の足を捕捉するようにできていた。「な、なんと...」
 集合時刻前後は、むしろ退潮していたように感じていた弥生は、ケータイを取り出すと潮汐情報を探し始める。
 「あぁ、千さん、今日は十時前が干潮ピークだったみたい。つまり退きたて、てこと」
 「ハハ、珈琲は挽き立てが良いけど、干潟はそういう訳にはいかないってか」
 ペットボトル等々をカゴに入れて戻って来たのはいいとしても、泥靴ってのが冴えない。おまけにこの駄弁と来た。
 「違いがわかる男、か。フフフ」 櫻はウケているが、
 「千兄も櫻姉もしょうがないなぁ」 小梅は半ば呆れている。
 「じゃ仲良く周ってらっしゃい」 蒼葉は毎度この調子。

 可能な限りのリセットを終え、結果がまとまったのはメンバー集合から実に一時間余り後。ショーとかシャレとかで休み休みだったことを考えれば、ペースとしてはまぁまぁか。
 「ではでは、モバイルDUO、行きまーす!」
 「頑張ってね」
 「二人でやるのよ、Goさん♪」
 名称が決まったことで、その意義もより明確になった。一人が読み上げ、一人が入力する、二人でDUO。こうした地域貢献活動に華を添えるシステム、と言ったら言い過ぎか。ともあれ、設計者と開発者は、今度はそんな華の部分を自ら検証するように、あぁだこうだやりながらも和やかにピピとやっている。
 「そっかぁ、数が多い品目が上に来るようにねぇ。さすがだね」
 「オホホ、まだまだ進化させますわよ」

 新年初入力&初送信された内容(抜粋)は次の通り。
 ワースト1(1):ペットボトル/四十、ワースト2(3):プラスチックの袋・破片/三十五、ワースト3(2):食品の包装・容器類/三十三、ワースト4(4):発泡スチロール破片/二十四、ワースト5(-):タバコの吸殻・フィルター/二十二(*カッコ内は、十二月の回の順位)。前回ワースト5だったフタ・キャップは、一つ順位を下げ、十七。ワースト1のペットボトルにはフタが付いた状態のものが多いため、外して数え直せば、間違いなくワースト5内に入るだろう。ただし、世界共通の調査では、あるがままの状態が優先されるため、外した分が上乗せされることはない。その辺は六月も十分承知している。

(参考情報→2008.1.6の漂着ゴミ

 加算しようがしまいがフタはフタである。アフターケアが欠かせない。少年は千歳のバケツを拝借し、フタを外しては洗って、というのを繰り返している。
 「堀之内センセと相談したら、とにかく再生工場に持って行こうって話になったノダ」
 「へぇ、わざわざ?」 蒼葉が尋ねる。
 「春休みのどこかで、場所は木更津。小児料金狙いならホリデーパスだけど、平日に行くとなると18きっぷかなぁ。あ、ぶんかさんも一緒に行くことになるかも。そしたらクルマ」
 「何かのついでならいいけど。そっか、電車乗るのがメインか」
 「小梅もついてこっかな」 蒼葉を制するように姉御がしゃしゃり出る。
 「小梅ちゃんが付き添ってくれるんなら、あたしはいいか。でも春の房総方面ていいかもね」 実の姉も乗り気になっている。どうやらこの話、ちょっと大きくなりそうである。