2008年10月14日火曜日

70. カウントダウンが始まる


 ここまで来たら設立するしかない。だが、その成否は総会にかかっている。押し気味ではあったが、事前の準備は整った。今日はこれまでに募った会員各位への議案発送大会である。当センターが得意とするIT系やりとりで以って、議案はwebから、出欠届もEメール等で、というのも一応案内はしてあるのだが、何せ設立総会である。現物主義で確実に、となると、紙なりハガキなりが物を言う。発送件数はそれほどではないものの、資料のボリュームがそれなりなもんだから、出て来られる役員・委員は総出、かつ朝からバタバタ。
 この際、higata@関係者にも手伝ってもらいたいところだったが、舞恵は年度末が近いこともあり、自主的に休出、八広は冬木と打合せだか何だかで揃わない。第三土曜日なので、本来なら第三の男が来て然るべきではあったが、お嬢さんのアタックが利き過ぎたか、ご欠席。
 「ま、業平さんは仕方ないわね。でも、弥生嬢は? 召集かけといたんだけど」
 「ケータイかけてみたらどうですか?」
 ライバル関係にある二人ゆえ、あまりお勧めできる話じゃなかった? 櫻は言ってから気が付くも、
 「そっか、かけてみよ」
 あっさり受け容れられてしまったので、キョトンである。文花がピピとやり出すと、その通話先の女性がタイミングよく入ってきた。
 「こんちはっ。遅くなりました」
 「あ、今ちょうど。ちょっといい?」
 昨夜の余韻覚めやらず、櫻も千歳も今ひとつキレがない。あのライバルどうしがすっかり睦まじくなっているのは何故? まして、業平が昨日どっちと過ごしたか、なんてことはわかりよう筈がない。
 「で、どうだった? うまくいった?」
 「あ、えぇ、おかげ様で。でも今日来ないんですか...」
 「心配ならいいわよ。会いたいでしょ?」
 「おふみさんたらぁ」
 聞き耳を立ててはいたが、笑い声しか聞こえなかった。今や先行カップルで通る二人は、
 「ま、こっちも内緒事項あることだし」
 「何か新展開があったんでしょうね。いずれ自分から話したくなるでしょうから、その時まで。フフ」
 手の方がお留守になりそうだが、ちゃんと動いている。職員というのはそういうものである。

 総会に係る書類を封筒の中に詰め込むところまでは、午前中に終えることができた。続きの作業は午後から再開。封を閉じ、業者指定の宛名ラベルを貼り、引き取りを待つ、それだけ。今は四人が残り、館内でランチタイム。
 「本当はもっと早く出したかったけど」
 「季刊誌その他、前から予告はしてたんだから、いいんじゃないですか?」
 「ま、あとはメールで一斉案内か...」
 「じゃ例の送信方法で。ネ、隅田クン?」
 「へ? あぁ、本人情報確認欄付き、のこと?」
 まだちょっとボーッとなっている千歳だった。すると、
 「Bonjour!」
 春らしい装いでモデルさんがやって来た。誰彼さんは声が出ない。櫻お手製のデリに手を伸ばしつつも、ボー。いや、beauと言いたいようである。
 「あら、手伝いに来てくれたの?」
 「絵画展のチラシ、一応作ってきたんで、もしよければ一緒に、と思って」
 「蒼葉ちゃん、やるぅ!」
 「そっか、同封物...」
 女性四人が集まれば賑やかになるのは至極当然。居心地は悪くないのだが、ここは女性どうしで語らってもらうのがよかろう。
 「じゃ僕はメールの設定始めてますんで」
 気を利かせて移動する。カウンターの隅っこに居る隅田クンである。

 この際、DUOの案内を同封しても良さそうだったが、
ふ「拡大版のメドが立ってからでもいいかな」
や「とりあえず、当日資料は用意します。初仕事として」
 とのこと。あとは、
さ「まだQRコードはないけど」
ふ「せっかくまとめたんですもの」
 原版はカラーだが、今回はモノクロ。A3ヨコに広がるは先週の成果である。
さ「ま、塗り絵として使ってもらうのもアリですね」
ふ「となると、グリーンもオレンジもないわねぇ」
あ「そこは人それぞれでしょう。感覚、感性、感情...」
や「表題は? いろいろマップ?」
さ「それにいきいきを足す」
あ「ひらがなで書くと、きいろ、って」
ふ「でも、グリーンとオレンジで共通する色ってもしかして黄色?」
 話が尽きないので、とりあえずは表題なしで、その仮まとめマップは発送されることになった。
 「封しないでおいて良かったですね」
 「ま、こういうのはできるだけ引き付けて、ってことなのよね。他にチラシとか、大丈夫かしら?」
 「四月六日イベントは?」
 文花を横目に弥生が一言。
 「そうねぇ... クリーンアップは講座の一環だから一応案内出したけど、ステージの方よね」
 「ま、あんまりお客さん増えちゃうとプレッシャーが...」
 「あら、櫻さんらしくないわねぇ」
 「いえ、あんまし派手にやりたくないかな、って。音響関係も一部はお天気次第だって言うし」
 電気系統には、再生エネルギーを組み入れる予定ゆえ、音量にも制約が生じる見込み。それに見合った客数というのも自ずと控えめになる。だが、櫻はこれとは別の理由で、セーブをかけようとしていた。「彼女が演奏に集中してもらえるように、心置きなく旅立てるように...」

 「それじゃ皆様、今日はどうもでしたっ!」
 文花は発送前の箱々を前に、笑顔満面。
 「残るは当日の段取り?ですね。もうちょっと詰めないと」
 らしいことを述べるのはこの人、千歳である。
 「会員から立候補が出なければ、女性議長を立てる、あとはその人の仕切り次第ではあるけど...」
 「って、おふみさんが?」
 「まさか。事務局長はね、議案説明役なのよ。議長からのご指示で淡々と...」
 「フーン」
 「弥生ちゃん、勤務初日だけど来る? 起業家としては設立総会って勉強になると思うけど」
 「あ、ハイ! でも、一応COO(最高執行責任者)と相談します」 議事の記録は新理事で交代しながら、議事録署名は代表が一筆入れればあとは一人か二人か、そんな話が少々。兎にも角にも、発送が済めばこっちのもの。あとは総会成立に必要な出席者、または書面参加が得られればいい。かくして総会までのカウントダウンが、始まる。