2008年8月26日火曜日

62. 祝 × 4

二月の巻 おまけ

 そして、待ちに待った十六日。一昨夜から昨朝にかけて何かがあった割には、全く普段通りのアラサー二人は、表情とは裏腹に体の方はせかせかと動いている。あわただしいのは、昨日半日櫻が不在だったためではない。前夜に朗報が飛び込んだからである。
 「お祝い用のデコレーションて、難しいわぁ」
 片面使用済みの色紙に、おなじみのスマイルマークをプリントアウトしたものをあちこちに貼ってみるが、どうもピンと来ない櫻である。
 「万国旗とかあれば違うのかな」
 「国際交流の場だったらまだしも、内輪の会だから。ま、あとはデコレーター次第かな」
 内輪向けイベントと言い切ってしまうと、公共施設だけに憚られるところ。キャンドルナイトの時と同様、扉には「開館中 *ただし、祝賀会実施中」との貼り紙。これなら許される?
 文花は取り急ぎ、得意の野菜スティックなどを作っているが、今日は持ち込み式なので、それほど周到ではない。会議スペースのテーブルをくっつけて、食器を並べれば大方OK。一輪挿しを配する余裕さえ見せる。

 弥生&六月に続き、デコレーターさんも到着。開会三十分前である。
 「ハハ、スマイル♪」
 弥生は満更でもなさそうだが、舞恵は早速ダメ出し。
 「ウーン、何かパッとしないなぁ。そのスマイル君さ、丸坊主だからつまんないんよ。舞恵みたいにクルクル髪でも描いてみたら?」
 「そうか、ボサボサ」
 「たく、そのセミロング、ボッサボサにしたろか」
 この様子を見ていた六月は、さながら眼鏡をかけたスマイル君といったところだろうか。呆れながらも薄ら笑い。

 祝賀会場には些かファンキーなスマイル君で満たされることになる。だが、まだ物足りない。
 「やっぱチカチカするのとか欲しいかな」
 「あ、そうそう、六月!」
 少年が持ち込んだ紙袋の中には、クルクルというか、グルグル巻きの物体が入っていた。
 「バイト先の倉庫に転がってたから、持ってきちゃった」
 クリスマス時期にはエントランスなんかを煌かせていた。シーズンオフに入ったと思ったら、この通り起こされてしまった次第。LED式イルミネーションケーブルである。
 「でかした!」
 デコレーターは、すっかりスマイル顔。ホワイトボードに引っかけ始める。肝心のボードメッセージがないが、そこはチカチカの具合を見ながら、書き足すことになる。

 「へへ、舞恵はこいつを持って来たさ」
 ルフロンも大小の紙袋を持っていた。突飛なことをしでかすのは、今も昔も変わらない。手荷物検査したっていいくらいである。とりあえず小さい方を覗き込んで櫻は一言。
 「ハハ、そう来たか」
 「くす玉とかないんでしょ? 本人が来たら、皆でね。景気付け♪」
 「って、これが差し入れ?」
 「んな訳ないじゃん。あとでちゃんと八クンがね」

 朗報の多寡にかかわらず、もともと予告はしてあったので、メンバーの集まりは頗(すこぶ)る良かった。気合いの情報誌の追い込みで、あいにく冬木は不参加だったが、蒼葉、南実、八広、そして第三の男、業平も相次いで現れる。higata@の十人中、九人がセンターに集結。櫻がボードに向かっている間、舞恵は景気付けグッズを銘々に配る。出迎えの準備は整った。そして、
 十五時ちょうど、お祝い対象の本人が母、妹とともに晴れ晴れと参上。
 「皆さん、こんにち... わぁ!」
 「ウヒャー!!」
 姉妹ともどもびっくり仰天。エントランスからカウンターにかけての数メートルの間に、十人十発のクラッカーが浴びせられたとあれば、普段はあまり動じない二人も大声を上げざるを得ない。ビックリくりくりさんの演出、大成功である。

 「おめでとっ! 初姉」
 今日もくりくりなルフロンさんのご発声に続き、一同からは拍手喝采。
 「まさか、こんな... あ、ありがとうございますっ!」
 このお嬢さん、これまで不機嫌顔か笑顔かのどっちかしか見せなかった気がするが、この瞬間を以って新たな表情が解禁されることになる。
 「あーぁ、お姉ちゃん...」
 妹が寄り添い、その周りに輪ができる。クラッカーに腰が引けていた母はセンターに入りかけたところでその様子を見守る。姉妹同様、涙目である。

 時間が止まったようなスローモーションな時が流れる。が、それも束の間。
 「何だ何だ、ここは今頃春節かいな。爆竹でも鳴らしたか?」
 「あら、先生...」
 京の潤んだ眼差しに清はイチコロ。
 「ハハ、呑んでねぇのに酔っちまうわな」
 とか言いながら手土産はちゃっかり流域の地酒だったりする。そりゃ誰かしらは呑むだろうけど、
 「センセ、今日はどっちかというとお茶会よ。まぁどうしてもってことなら、私、お相手しますけど」
 「そっか、その手があったか。でも、これ辛口だぜ」
 「私、こう見えても強いんですのよ」
 勤務時間中のところ、代表と事務局長がこうである。だが、そこは矢ノ倉事務局長。
 「今週は定休日が祝日だったから、今日は私としては代休です」
 「ヨシヨシ、じゃまぁパァッとやるか」
 二月十一日は固定だから致し方ないが、月曜定休の施設はハッピーマンデーで割を食うのが相場。代休を設けるか、それとも定休日を変更するか、どっちにしろ法人として独立した暁には、そうした運営細則も自主的に決めていくことになる。先送りになっていた理事会だが、議題の方はこうした例にあるようにしっかり蓄えられ、追ってくる。ま、今日のところは英気を養っておくのが一番だろう。

(参考情報→ハッピー?マンデー

 初音を囲んでいた輪は何となく広がって、お祝いボードを取り囲む形になっている。ここで、板書した当人がその箇条書き一行目を読み上げる。
 「では、改めまして、こちら。祝・石島初音さま、第一志望校、合格! ですね」
 「ハイ! おかげ様で。第二・第三の方が怪しかったりしますが、第一が通ればこっちのもんです」
 舞恵は手を叩きながら二言三言。
 「何かいいなぁ、青春真っ盛りってゆーか、合格決まって入学までの間とかって、やりたいこと一気にできるって感じしてさ」
 「えぇ、やりたいことはもちろんいろいろ。でも、それよりもここ数ヶ月の念願があって」
 言い出しにくそうにしていたら、今度は南実が一言。
 「念願? 志望校合格じゃなくて?」
 「こうやって、笑顔で皆さんとお会いする、ってことです。そのために頑張って来れたようなもんかも。だから今、それが叶ったのがすっごく嬉しくって、う...」
 笑顔でと言っていた矢先にこの通り。これには男性諸氏も目頭を熱くせざるを得ない。
 「二カ月前くらいでしたかね。櫻さん発、弥生さん経由で、親父の話、聞きました。それも励みになったかな」
 「あぁ、トーチャンの泣かせる話かぁ」
 その場に居なかったメンバーがチラホラいるので、しばし、その時のレビュー話で盛り上がる。が、
 盛り上がってる場合ではなかった。
 「いけね、これ出すの忘れてた。冷めちゃったかなぁ...」
 大ぶりのランチボックスを開けると辛うじて蒸気が出てきた。今となっては懐かしい、ニコニコ...パンケーキである。
 「ニコニコじゃ済まないわねぇ。十、十一...」
 「とりあえず二十二枚、いつもより大きめに作ってきました」
 一人二枚とは行かない計算だが、ニコニコものであることに変わりはない。
 「そしたら、こっちも。蒼葉ぁ、Tu es prêt?」
 「ハイハイ。Bon anniversaireネ。小梅ちゃん!」
 「え?」
 景気(ケーキ)付けに始まり、パンケーキが出てきて、お次はバースデーケーキである。
 「一日遅れだけど、これはシスターズからのお祝い。お誕生日おめでとっ!」
 「櫻さん、皆さん...」
 箇条書き二つ目以降は、クイズでおなじみの紙隠しがしてあった。二行目はズバリ「祝・石島小梅さま Happy Birthday!」 ボードの周りのチカチカが小梅の瞳に程よく反射していて、少女漫画のヒロインのよう。そんな目の輝きは涙で倍加することも考えられるが、とにかくキラキラしているうちがチャンス。先にセレモニーをやってしまおうということで、そのクリームたっぷりのホールケーキにはキャンドルが立てられ、火が点される。
 キャンドルの本数と同じ人数が円卓を中心に集まっている。楽器があればバンドの生演奏つきでお誕生日ソングを歌ってもよかったのだが、ここはアカペラでお祝い。
 六月は火を吹き消す小梅を見ながら、
 「火は消えちゃったけど、オイラ的には萌えー... 何ちって」
 シスターズが勢ぞろいした今だからこそ、逆に確信するものがある。彼の意中は一人に絞られていた。春一番はまだ吹かずとも、心の中はとっくに旋風(つむじかぜ)状態。人はこれを思春期と呼ぶ。

 拍手の余韻が残る中、板書担当が声をかける。
 「こういうお祝いは、続けて行っちゃいましょう。三つめは、プライベートのようなそうでないようなですが、蒼葉さん、どうぞ」
 「え、これ私が外すの?」
 両端のテープを剥がすと、今度は「祝・千住蒼葉さま 準大賞ご入選!」
 「アハハ、櫻姉、ありがと」
 サプライズネタの筈だったが、小梅→六月→弥生→業平といった連絡網で周知されていたようで、インパクトは弱め。当該作品を披露できればまた違ったのかも知れないが...
 「あぁ、そうそう持って来たよ。気が利くっしょ」
 舞恵の怪しげ紙袋、そのでかい方には拝借していた蒼葉ブルーの佳品が忍ばせてあった。
 「おぉ...」
 一同、特に男性諸氏は揃って嘆声を漏らす。
 「って、これとは違うんだよね」
 「連作って考えれば、これも賞モノ、かな?」
 「とにかくさ、アトリエで眠ってるのも持ち込んでさ、センターで個展なさいよ。舞恵、画伯の絵、好きよ」
 「が、画伯てか。そりゃどうも。じゃ漂流・漂着をテーマに、ってことで」
 センターの新たな活用策が導かれることになる。そんなこんなも含め、祝賀会らしく再び拍手が広がった。
 「ルフロンさ、詞の方は? 画からインスパイアされてどうこうって」
 「あぁ、この後、八クンと練れば完成。あとは曲だけど...」
 ノリを求めるなら業平だが、しっとり聴かせる曲を、ということなら千歳か。ソングエンジニアの二人は、その絵を観ながらすでにディスカッションしている。この際、合作というのもいいかも知れない。

 「で、四つめはお祝いって程じゃないかも知れないけど、この通り。祝・季刊誌、無事発行!でございます」
 「ま、ブログで蓄積があったとはいえ、ここんとこのイベントラッシュなんかもよくまとまってたし。いいんじゃない」
 文花は手を叩きながら、軽く賛辞を送る。
 「ついでに申し添えますと、二月の定期クリーンアップの方も無事済みましたこと、改めてご報告...」
 言い終わらぬうちに、ブーイングが飛ぶ。
 「それはね、抜け駆けっていうのよ。二人だけでズルイっ!て正直思った」
 「そうよ、あたし達だって、楽しみにしてんだから」
 蒼葉と弥生である。彼女らなりの社会科学的アプローチを以って、しっかり卒論はクリアした。今となってはデータの分析も何も、差し迫った用件はない。さらなる向学心ゆえの発言ともとれるが、からかい半分、憤懣半分、といったところだろう。
 「まぁまぁ、もとはお二人で始めた取り組みなんだから、たまにはいいじゃない、ねぇ?」
 文花が取り持ったところでどうにかなるもんでもない。
 「二人の愛は、この蒼より出でて...」
 「川の青、空の青よりも深し、か」
 絵画を前に、なかなかの詩人ぶりを見せる妹分二人である。櫻は真っ青、否、真っ赤になって喝。
 「もうっ! さっさと移動!」

 円卓に丸いケーキがいくつも並ぶというのも悪くはなかったが、お茶会会場はあくまで会議スペースである。珈琲は人数限定ながら、お茶の方はポットサービススタイルでいくらでも。とにかく準備は整っている。
 パンケーキが冷めてしまってはいけないので、挨拶は至って手短。
 「皆さん、いつもありがとうございまーす。で、この度はいろいろとおめでとうございます、です。とにかく乾杯!」
 まだ呑んでいないのだが、文花はすっかりご機嫌である。仕切り役がこの調子なので、あとはご自由にご歓談...とはならなかった。始まったのは独占会見である。

 「舞恵としては試験の出来が気になる訳さ。特に英語、どだった?」
 「えぇ、自分で喋る訓練した甲斐あって、聞き取るのも楽でした。ヒアリングはバッチリ。訛(ナマ)ってなかったけど。ヘヘ」
 「Oh-oh, Good grief!」
 「え?」
 「ヤレヤレ、とか、あきれた、って意味よ。悪かったわね、ブロークンで」
 「感謝してます。Great Teacher Okumiyaさん」
 略すと、どっかの破天荒教師になりそうだが、ま、いいか。

(参考情報→Good grief!

 「小論文ってあったの?」
 こういう質問をするのは、最近まで論文に追われてた女性しかいない。
 「えぇ、人間環境学に関係してか、お題の一つにボランティア論があったんで、それで。自分で実際にやってみて思ったことを率直に、あとは弥生さんとやりとりした中で感じたこととか...」
 社会奉仕という観念だと、きっかけにはなるが自発性に欠ける。ボランティアは文字通り自発性が求められるが、その自発の根源にあるものが利己か利他かで分かれる可能性がある。自己満足や功名心と表裏一体な面があるのは織り込み済み。だが、そういうのが見え隠れしないボランティア活動を求める人もいる。それをより明確に定義するとしたら?
 「で、これからは課題解決型市民によるソリューション行動が欠かせないのではないか、といったまとめ... ちと大げさでしたかね?」
 弥生も同じようなことをぶち上げて、一大宣言してしまったのは記憶に新しい。だが、ケータイメール程度でそこまで省察が及ぶものなのか。いや、現場体験から導かれる実学の力が大きかったことは言うまでもない。そして何より干潟に集う人達が、当の課題解決型市民(根底にあるのは蒼氓の精神)だからこそ実感を以って書き得たのである。
 あまりに立派な御説だったので、掃部先生も地酒そっちのけで割って入る。
 「いやぁ大したもんだ。親父さんにも聞かせてやりてぇや。役所ってのは課題解決どころか、時に課題を増やしちまうからな」
 「でもセンセ、役所がしっかりし過ぎちゃうと、市民の出番がなくなってしまうんじゃ」
 「ま、何事も程々ってことですな。ワッハッハ」
 お酒も程々に、と文花が返したかどうかはいざ知らず、である。
 会見はまだまだ続く。
 「とすると、初音嬢としてはどんなソリューションをお考えで?」
 業平が起業家らしいことを訊く。
 「マッピングとか、流域予報とか、何かこう分析系に基づいたお役立ちネタを。あ、クリーンアップの調査結果もほしいです」
 「そしたら、こないだの分も合わせた集計表、送りますワ。アドレスは?」
 こうなると、かねてからのお約束を思い出さない訳にはいかない。
 「そうだ、メーリングリスト! 入れてください」
 「おぉ、そうでした。では、担当の隅田クン、よろしく」

 円卓には再びPCが戻る。千歳はブラウザで管理画面を開くと、初音にアドレスの入力を促す。
 「ケータイ用じゃなくてPC用ですよね。だったら、ohatsu@...と」
 「え? 初姉さん。おはつって、あだ名?」
 「何か変スか?」
 「おふみ、おすみと同じシリーズだなぁって思ってさ」
 higata@への仲間入りを果たしつつあった初姉だが、それを祝す向きばかりではないことを知る。卓の脇にはいつしか小梅が立っていて、
 「お姉ちゃんいいなぁ、ってゆーか、小梅、仲間はずれみたいな感じ...」
 実に淋しそうにしている。まさかメーリスが姉妹を分かつことになってしまうとは。管理人としてはそれは不本意というものなので、一つ策を打って出る。
 「小梅さま、自宅PCは何台?」
 「二台あります。でも、お姉ちゃん専用が一台、小梅のは...」
 三人共通のデスクトップがあるらしい。それでもアカウントは分けてあるようなので、メールの設定は大丈夫。あとはサーバ保存日数を間違えなければ、共有可能である。
 「じゃ今から姉妹共通のアドレスを作ります。この通り設定すれば、どっちも受信できるし、どっちからも発信できるよ」
 「今から、ってのがスゴイし」
 「さすが、千兄!」
 十代の女性二人からこのように激賞されるのは何とも言えない気分である。テレを隠すように、設定メモをちょちょっと直してプリントアウト。その間、姉妹はアドレスを決める。
 「ははぁ、sisters@って... そのままじゃん!」
 「そりゃ、仲良し姉妹だもん。ね、小梅?」
 「じゃあ、自己紹介メールとか、第一報は姉妹で一緒にってことで、よろしくね」
 会場のスマイルマークが奏功したか、いやいや、初音はとうに表情の作り方を会得している。そして何かを伝える時は、表情を伴わせることで、より力強さが増すことも体得済み。姉は実にイイ笑顔で妹に優しく語りかける。
 「小梅、今までほんとゴメン。ツライ思いさせちゃって...」
 仲良し姉妹云々のくだりですでに半泣きになっていた小梅は返す言葉もなく、ただ頻りに頷くばかり。千歳も同じように首をタテに振ってみる。記念すべき場面に立ち会えたことが何よりも嬉しい。sistersと打つ手が震えて仕方ない。
 と、いつしかSistersが増えていて、何やら騒々しい。
 「いやぁ、千住姉妹もイイ味出してっけど、石島姉妹もいいねぇ。泣かせるワ」 ルフロンが口火を切る。
 「櫻姉も見習ったら?」 蒼葉はまだ姉に絡んでいる。
 「ま、とにかくめでたいめでたい。ハハ...」
 櫻はバースデイケーキのホイップを付けたまま、おどけてみせる。
 「晴れてhigata@に入ったことだし、社会勉強から何から。天気もかな。でもって、家族も友達も、とにかくいろんな意味で環境を学んでいこうと思いますっ!」
 またしても結構なお話が出るも、
 「でもさ、初姉。これからはやっぱ恋でしょ、恋」
 「ルフロンたら何言ってんの。初姉のことなんだから、ちゃんと彼氏...いるでしょ?」
 櫻が妙なことを言うもんだから、千歳は思わず息を呑む。大いに気になるところではあるが...。
 「お姉ちゃん、学校ではハード系でモテてるらしいんだけど、怖くて近寄れない男子が多いのも事実だそうで。ヘヘ」
 姉の顔色を窺うことなく、妹は堂々と言ってのける。この小梅情報に一同納得も、ついついニヤリ。想像に難くない逸話である。
 「なーに、これからこれから。higataブラザーズ見て学習したし。もっとステキな人見つけちゃうんだ」
 初音の社会勉強の範疇は広かった。誰とどう比較したのかは不明だが、本日ここにいる三人の兄さんが含まれていることは確実。
 「ま、恋の悩みがあったら、舞恵姉さんにネ。パンケーキLサイズで相談のったげるし」
 「あーら、ルフロンがお悩み相談? 悩んだ経験があるようには見えないんですけど?」
 「櫻姉と違って、こっちはアップダウンが激しかったんざんす。ベー」
 「あーぁ、また始まった(Good grief?)」 小梅はお手上げ、千歳は沈黙。初音は大笑いである。泣いたり笑ったりでおいそがしいが、外は彼女の泣き笑いに関係なくずっといいお天気。自然とスマイルも広がる。