2008年9月2日火曜日

63. 魔女の箇条書き


 離れたところで様子を見ていたのは弥生と京。メイン会場では、清と南実が問答してたり、それを肴に文花が一人で酌をしてたり。業平、六月、八広はパンケーキを頬張りながら、よもやま話。そろそろ中押しというか、何か一席入りそうな時間帯ではあるが...。
 十六時近く。一応開館中のセンターに客が尋ねてきた。ここは接客係の出る幕ながら、
 「おっ、来ましたね」
 ひょっこり顔を出した初老の男性に応対したのはルフロンである。
 「やぁ、奥様。久しぶり」
 「奥様?」
 祝賀会場は俄かに騒然。あの舞恵さんを奥様と呼ぶあたり只者ではない。千歳はどこかで見覚えがあるようなないようなだが、果たして何者なんだろう。
 「皆さん、ご紹介しますワ。監事筆頭候補、入船寿(いりふね・ひさし)さんでございます」
 同年代と見受けるや、すかさずカモンのおじさんがチャチャを入れる。
 「し、しさし、さんかい」
 「寿と書いて、ひ・さ・し、です。生粋の江戸っ子ですが、掃部先生と違って、ちゃんと発音できますから」
 「そいつは、ひつれいしやした」
 「?」
 事前に関係人物情報を得ていたらしく、お互いを紹介し合うのにそれほど時間はかからなかった。千歳のことも寿氏はちゃんと憶えていて、
 「あぁ、隅田さん。その節はどうも」
 「いやはやまさか、あの時の方だったとは。洒落じゃないですけど、本当にひさしぶりですね」
 「もうすぐ退職って時に、善意ある方に接することができて、何よりでした」
 「あの日はね、入口の入船、奥には奥宮、のパターンだったんよ。いい時にご来店くださって」
 「奥には奥宮...そっか、それで奥様かぁ!」
 千歳はえらくウケているが、他の面々はその日の出来事がいま一つつかめていないので、疑問符が宙を舞っているような状態。八広の爆走、櫻を襲ったアクシデント、縁結び、この際まとめて披露した方が良さそうだ。
 祝賀会に打ってつけの一席はこうして仕立てられ、否応なく盛り上がることになる。が、そんな奇遇だけで監事に推したり、逆に名乗り出たりするものだろうか。実はこんなエピソードもあってのことだったのである。
 「で、娘が子ども連れて十月のクリーンアップに出かけたんですがね、その子、あぁボクにとっちゃ孫ですが、何でも転んじまったそうで。でも、優しいお姉さんとお兄さんが助けてくれて、って聞きまして。他にもその日あった話ってのが良くてね。奥様はその場に居なかったから詳しいことはわからんて云うんだけど、とにかくその干潟の人達とNPO法人の件がつながってる、ってのはわかったんで...」
 「そのお姉さんとお兄さんて、もしかして」
 「初姉と千兄だよ、きっと」
 本人達を差し置いて、櫻と小梅がタネ明かししてしまうのであった。ま、何はともあれ、あのハプニングは注射器を発見するためだけに起こった訳ではない、ということがこれで明らかになる。
 「娘や孫とはその後、そっちの干潟に時々行ってたんです。下流の方だったから、これまでは皆さんとはお会いできませんでしたがね。今度は皆さんとこ行きますよ」
 「ね、待った甲斐、あったっしょ?」
 「さっすが奥様!」 文花は絶賛するも、
 「魔女だけのことはある」 櫻は毎度この調子。
 どうやら雨も嵐も、その魅力ならぬ魔力によって連れてこられてくるようだ。
 「そういうのは、気象予報士の担当外、だと思う...」
 初音の言い分、ごもっともである。

 棒状のものを持たせると、通常はつい彼氏を叩いちゃったりするが、魔女ともなれば然るべき使い方がある。クルクルやれば何かが起こる? 今はマーカーを手にしている魔女さんは、
 「へへ、まだ早いけど、ほぼ決まりネ」
 電飾を外し、会場に運び込まれたホワイトボード。その前に立つや、サラサラと走らせる。五行目には「祝・監事決定! パチパチ」と書き足された。

 奥様の走り書きに気を良くしたか、寿氏は監事就任にあたっての前振りのような講話を始める。アルコールが入っても従容(しょうよう)としたもの。さすがである。
 「巷じゃ2007年問題だとか言って、定年退職者を地域でどう迎え入れるべきか、なんて話も出てましたよね。先生はどう思われます?」
 「まぁ、余計なお世話っつうか。シマを持て余すくらいなら、しっかりお役に立ってもらおうてのはわかるけど、そっとしておくのが一番じゃねぇかな」
 「かと思えば、NPO法人作るんだとか何とか、旗を揚げたがるのも出てくる。何かチグハグな感じがしてね」
 こういう話になると黙ってられない論客が居る。若手先鋒と言えば、勿論この人。
 「いわゆる団塊の皆さんが何かやろうとする時って、必ずと云っていい程『立ち上げる』って言い方しますよね。すでに先行例があったとしても目を向けない。自分達がやらなきゃってのが前面なんスよね。チグハグなのはそれも一因じゃないでしょうかね」
 「立ち上げる、か。何か今まで倒れてたみたいで失礼ね。確かに」
 程々に酔いは回っているが、文花は今のところ正気。
 「他の退職者連中には、いますよ。立ち上げどうこうとかやってた輩が。ま、第二の人生、地域なり何なりで頑張ろうってのはわかるけど、それじゃ勤めてた頃と行動原理が同じだろって。ボクはそういうのとは一線を画したかった。出しゃばらず、されどできることは力を尽くす、だから人材バンクの話はありがたかったなぁ。市民社会への側面支援、これだ!ってね」
 初音が小論文で一説投じたところと相通じるものがある。それは己を利するよりも他者を利するの精神論。こういう人物ならまずは安心、いやそれ以上か。
 「オレがオレが、みたいな人が入ってくると面倒でしょ。人の出入りって言うか関わり方なんかもしっかり監査させていただくつもりですから。ひとつ、よろしく」
 監事殿は浅めの会釈。対するご一同は深々と頭を下げる。
 「そうそう、法人の口座の件なんですけど、ここはやはり入船さんにご相談するのが早道ですかね」
 「法人用ってのは何かとお手間を煩わせたりしますから。当行をご用命いただけるんでしたら喜んで開設等、お手伝い差し上げますが」
 「よかったぁ。ちなみに法人名は...」
 事務局長は、ここぞの達筆で前半九文字、後半八文字の長々しい名称をボードに記す。
 「あぁ、金融業界ってのは融の字が付く割には融通利かないもんでして、特定非営利活動法人の略称ってまだ用意してないんじゃ... とにかく貴団体名がしっかり表示なり印字なりされるよう合わせて手続きしますよ」

(参考情報→略称は(トクヒ)?

 そんなこんなの細かい話はまた追い追い。本来なら法人理事&運営委員用のメーリングリストでもあれば、より円滑に進められそうなところ。ネックとなっているのは、おじさんブロガーである。
 「んまぁ、監事さんも決まることだし、俺が何とかすりゃいいだけってことなら。緑のおばさんもEメールやってるつぅしな」
 と来れば、千は急げである。
 「じゃ、清さん、設定しましょう。手引書もすぐ出せますし」
 かくしてComeonシリーズ第二弾、comeon/に次ぐ、comeon@がデビューすることになる。
 本日のお祝いネタに加えても良さそうな一大事ではあったが、祝う気になれない女性が一人いた。
 「なぁんだ、せっかくコメント機能が付いたと思ったら」
 「いやぁ、コメント返してくのも何つぅかまどろこしいっちゅうか。まぁ、こまっつぁんとは直接やりとりしたいな、俺は」
 「先生...」
 グッと来た南実だったが、すぐさま切り返す。
 「わかりました。退屈しないようにマメにメールしますから、覚悟しといてくださいね」
 どんなキャッチボールが交わされることになるのか、お互い今から楽しみである。

 顔見せ程度のつもりが、何となく長居してしまった。
 「では、また来週お目にかかります。ごきげんよう」
 入口の入船さんは、出入口へ向かう。行員時代の名残か、そのスッとした去り方はなかなかのインパクトがあった。どこかのおじさんの蟹股歩きも強烈ではあるが...。
 まだまだ明るいので、宴も易々とは終わらない。メンバーは思い思いの時を過ごす。

[魔女 vs 小悪魔]

 準大賞紹介の際、これといったインタビューをしそびれてしまったものだから、副賞の話がすっ飛んでいた。櫻としては好都合だったが、舞恵は思い出したように食い下がる。
 「へぇ、姉様と兄様にディナー&ご宿泊をプレゼントってか。やるなぁ、画伯」
 「自分の分はちゃんととってあって、教室を開く時の投資に回すとか何とか」
 「フーン、でも舞恵が気になんのは、そのご宿泊の方かなぁ」
 野菜スティックを手に小さくクルクル。これは秘め事を聞き出す時のプチ魔法。櫻はつい乗せられてしまうも、時すでに遅し。
 「ナヌ? 曲かけて横になってたら寝ちゃってた、だぁ?」
 「シーッ!」
 しばしの沈黙の後、魔女さんが溜息まじりに問うてみる。
 「咲くloveとか言ってる割にはどうなってんのぉ?」
 「私が何か仕掛けると、千歳さん倒れちゃうから。でもね、あんな感じの豪華ディナーって二人では初めてだったから、それだけでまず満足。で、デザートでチョコレートケーキが出てきて、すっかり甘ーい感じになっちゃって、ヘヘ。だから、お泊まりはオマケなの」
 小悪魔アプローチを封印したとは到底思えないのだが、聞いてどうなるものでもない。舞恵は手にしていたスティックを口に放り込む。
 「そっかそっか、多様でいいんだもんね。愛の形も人それぞれ」
 「あとは、春になってからのお楽しみ♪」
 「て、もう立春過ぎてるしぃ」
 持ち込みワインのせいだか、少々絡みがち。だが、至って爽やかである。
 「そんで、そのカラオケデータ、今日はないの?」
 千歳からもらったCDを櫻は常時持ち歩いている。媒体があれば、あとは装置。十月のクリーンアップで活躍したアンプスピーカーとPCをラインでつないでみる。程なく会場にはBGMが流れ始めた。メンバーにはおなじみ『届けたい・・・』である。
 「あ、ルフロン、まだ聴いてなかったわよね」
 CDには練習済みの五曲に加え、ボーナストラックだとかで、ルフロンと櫻の新曲のデモversionが入っていた。櫻は持ち歌をスキップして六曲目をダブルクリックする。
 「ハハ、こんな感じになるんだ。ボサノヴァチックでいいわぁ」
 今のところ小品だが、緩やかな波を連想させて実に心地良い。聴いてりゃつい寝入ってしまうのも無理はなかろう。

[おはつ&ハチ]

 「へぇ、あれルフロンさん作曲、で、編曲が千兄さん?」
 「詞はまだ途中なんだな」
 「あのままとりあえずお店で流したい、かも」
 「だって、ヒーリング系とかイージーリスニング専門じゃ...」
 「野菜とかと同じスよ。地元ミュージシャンの旬モノを流さなきゃ、ね」
 とか話してたら、音合わせ会の話題になり、それならぜひ、となる。週末名物ニコニコパンケーキが再開されるのはしばらく先になりそうである。

[トライアングル]

 CDはランダムモードでかかっているので、何が飛び出すかわからない。弥生担当のハッピーな一曲が今は流れているのだが、それが裏目に出たか、トライアングルお三方が何やらもめている。
 「何かとウワサは絶えないけど、私、これでもステディ路線よ」
 「チョコとか渡してないんでしょ? あたしならちゃんと。ねぇ、Goさん?」
 「それは得意の弥生流ソリューションでしょ。何でもズバッとやりゃいいってもんでもないワ」
 正直なところ、ひょっとしてひょっとすると、という期待が高まっていた業平は文花の思いがけない肩透かしバレンタインに、かえってドキドキ感を募らせていた。弥生のアタックが実を結ばなかったのは、そんな大人の女の策が的中したため。駆け引きが高じれば三角形も安定感を欠いてくる。
 いつかはこうなるとわかってはいたが、いざ本番を迎えると、全く手の打ちようがない。ビジネスモデルとはてんで勝手が違うのである。
 「そりゃ焦っちゃダメなのはわかってるけど、この恋NGだったら、また引きこもりになっちゃうもん。やっぱ譲れない!」
 「なーに、若いんだから大丈夫よ。弥生嬢ならすぐにいい人見つかるって」
 地酒が利いてきたか、やたら陽気かつ攻撃的な文花である。業平は思う。そう言えば、聖しこの夜の時も笑い上戸が過ぎて大変だったっけか。そんなとこがまたいいんだけど...。
 ボーッとなっている場合ではない。今まさにこの時をどう乗り切るか、ある意味これも課題解決型市民の宿命である。
 「てゆーか、Goさんがハッキリしないからダメなんじゃん!」
 「いやぁ、どっちもいいなぁって...」
 ドラマだと張り手を食らいそうな展開だが、元来淑やかなお嬢二人はそこまでは熱くない。
 「ま、今日は祝賀会デーなんだし。ひとまず休戦ネ」
 「当面は良きライバルってことで」
 業平はへなへなになりながら、地酒の残りをグイ。途端にヘロヘロになっている。と、
 「おや? また新曲?」
 切ない曲が流れてきて、今度はそのまましんみり。彼のこういうところが女心をくすぐる、らしい。

[ブロガー 管理人 コメンター]

 晩夏の思いが込められたその曲がかかる中である。その作曲者に何らかの動機を与えた女性が今またちょこっとしたアクションを起こしていた。
 「はい、これは先生に。直接お渡ししたくて」
 「ハハ、何年ぶり、何十年ぶりだろな。ありがとさん」
 「で、こっちはお千さんに」
 「おせんにキャラメル、だったりして」
 南実と接する時は、何かと用心を要する。こうでも言っておけば、場面がシリアスになるのを緩和できる?という一策である。
 「まさか。私は先輩と違って、王道ですから。でも、何チョコって言えばいいんだろ?」
 気持ちの整理はついているものの、パターン的に適当な表現が見当たらない。慕ってはいるが恋じゃない、兄に似てるけど兄じゃない、正に義理某と言いたいところだが、世間では違う使い方がされているし。
 「何チョコでも別に。ありがたく頂戴します。あ、お返ししなきゃね。粒チョコとかどう?」
 「嬉しいけど、櫻姉さんに怒られちゃいますよ。それよりまたどっかでお茶でも。お話ししたいことがあって...」
 今となってはドキリとすることもないのだが、どうにも意味深に聞こえてしまうからこまってしまう。清がいたから助かったようなものである。
 「ツブって言やぁさ、例のブツはどうだった?」
 さりげなくシャレを入れつつ、話を転じてくれた。
 「幸か不幸か、見つかりませんでした。大きな魚じゃないと捕食しないのかも知れませんね」
 要するに自らの手で解剖した、ということである。文花が聞いたら卒倒しそう。千歳もさすがに言葉に詰まる。話を再度転じた方が良さそうだ。
 「それはそうと、これ、開けてもいいかな?」
 「えぇ、それもある種、臓物ですけどね、ちゃんと食べられますから」
 「?!」
 ドキドキしながら開けると、ハート型のチョコが出てきた。ま、確かに臓の仲間ではあるけれど...。
 ニヤリとする南実の頬には、えくぼ。やはり胸が高鳴ってしまう千歳であった。

[セレブな二人(蒼葉と京)]

 こちらもハートの話で持ちきりだった。
 「へぇ、ハートの型抜きで」
 「やっと納得行くのができたって感じね」
 「この何となく弾力のあるところがプラスチックらしいというか」
 「でもって、何となく脆そうなとこがハート向き」
 「京さん、その感性、さすがですね。姉妹はそのあたりを受け継いだようで」
 「ホホ、蒼葉さんにはかないませんてば」
 お茶会らしい優雅な会話が交わされている。
 「でも、それ用途としては?」
 「気持ちを伝えるのに使うんですって」
 母は次女にそのペレットハートを渡しに行った。

[若い二人(六月と小梅)]

 曲は変わって再び『届けたい・・・』である。折りよく京から小梅に届け物がされた時、六月はノートPCを操作中。インターネットで時刻表を再点検しているってんだから、達者なものである。来月十五日からはダイヤが改正されるので、より入念。
 「姉御、時刻表、調べたよ。アキバ集合でいいよね。木更津には...」
 それほど凝ったルートではないので、聞いてるだけでも構わないのだが、小梅の耳にはあまり入ってない様子。というよりも何かを躊躇っているような、そんな感じ。
 「六月クン、二日遅れだけど、これとこれ...」
 リボンつきの小箱、プラスチックハート添え、である。
 「おぉ感激。って本命?」
 「ヘヘ、それは君次第」
 「え?」
 「ルフロンさんだって、八兄さんよりお姉さんだしね。でも背が追いつくまでは何とも言えない、かな。今日のところは切符の御礼ってことで」
 恋の何とか切符というのを聞いたことはあるが、現物主義の彼にとっては関心外。だが、目に見えない特別な切符というのは存在する。今、確かにその一枚を手にしたような、そんな気がした。
 「入学したら、とりあえず先輩って呼びます。いろいろ教えてください」
 心の中で発車のベルが鳴る。あとは列車が動き出すのを待つばかり。

* * * * *

 祝賀会はひとまず幕引きとなり、概ね片付いたところで清と石島家三人はご退場。六月は一人図書館へ。となれば残るはhigata@の九人衆。干潟端ではないが、メンバー恒例のディスカッションに興じているところである。
 舞恵は、残り少ないボードの余白にマーカーを滑らせる。どうやら一つの結論を得たようだ。
 「よござんすか? 蒼葉嬢のA、櫻姉のS。男性は苗字を使う。隅田さん、ま、千さんでも同じだけどS、エド氏も一応メンバーなんで、Eをいただく。で、こまっつぁんは南実でM、トリは弥生嬢のY」
 「ASSEMY?」
 弥生はまだピピと来ていない。
 「あわてちゃいけない、お嬢さん。ここからが正に組み立て。宝木氏は八(ba)クンだからB、そしてこの舞恵さん、我らがLe FrontさんのLを足してみよう。あーら不思議」
 スティック、いやマーカーが綴ったスペルは、そう、
 「ASSEMBLY!」
 である。これぞ魔女っ娘ルフロンの本領発揮?と仮にしておこう。
 「ま、私は一リスナーとして応援しますワ」
 「先輩も何か楽器とかできればねぇ」
 「人前でそんな。トライアングルがいいとこね」
 ということで、文花のFはひとまず除外。しかし、もっと大事な人物を忘れてはいないか。
 忘れられてる当人は、「ト、トライアングル、う...」とすっかり固まってしまってるので、放っておいてもいいのかも知れないが、そうはさせじと、BGMが響いてくる。ズバリ『私達』である。
 「作・編曲者、というよりバンマスなんだから、ねぇ」
 旧友の千歳がちゃんとフォローする。だが、
 「Goさんなんて知らない。入れなくていいし」
 ここぞとばかり、毒づく乙女もいる。
 「しゃあないなぁ。じゃこれでどうだ!」
 ASSの上に小さく、敬愛すべきマスターの名が付け加えられる。即ち、
 「Go Hey with ASSEMBLY いいんじゃん?」
 こうして若干一名を除く、私達一同の同意は取れた。さまざまなプロセスを経て、ここまで組み上がってきた彼らの取り組みを象徴するようなネーミング。E氏も文句は言わないだろう。
 箇条書きの末尾に「祝・バンド名決定!」が加わった。一本締めとかはないけれど、拍手は起こる。そして止む。CDもちょうど、止まった。これもマジックのうち? だとしたら、心憎いばかりの演出である。 外を見遣れば、夜の帳(とばり)。漸(ようよ)う暗くなってきた。