2008年9月2日火曜日

64. 三寒四温七日


 二月最後の土曜日に、大詰め理事会は予定通り行われた。春一番吹き荒れる中だったが、疾風に議事が飛ばされるようなハプニングもなく、また一歩前進。入船氏の監事就任とともにメーリングリストも動き出すことになる。そして、その翌日は、寒さ逆戻り&再強風。天候に連動するかのように、怒涛のセッションが繰り広げられる。
ち「七曲全部仕上がれば、格好はつきそうだけど...」
ご「本番まであと六週間? ギリギリかな」
ま「何を仰るバンマスさん。あと、じゃなくて、まだ、よ」
 順調に仕上がっては来ているのだが、本気でライブを演(や)るには、もうひと押し欲しいと考えているメンバーである。仮に十曲そろえば、アンコールの設定もできるし、何を隠そうフルアルバムだって夢じゃなくなってくる。千歳のメッセージソングはまだ音合わせしていないが、詞ができればいつでも。
 詞が先行しているのもある。舞恵の原詩に曲が付けば九曲、つまりあと一曲となる。まだ六週間あると思えば、実現可能性は低くはない。
 メンバーが集結しているのはいいとしても、全員が全員、本調子という訳でもなく、季節の変わり目のお疲れなんかもあって、「きまった!」っていうのが出ないのがもどかしい限り。だが、スペシャルゲストは至って満足そう。彼女の笑顔に助けられ、本日のセッションは成り立っていると言っていい。来てもらって本当に良かった。おまけに手土産までいただいて。
 アツアツではないが、パンケーキは元気の素である。
 「よし、初姉のお祝いの続き。気合い入れて行こう!」
 マスターのかけ声で、難曲『Re-naturation』の再演が始まる。リードボーカルは蒼葉。
 「蒼葉さん、カッコイイなぁ。でも、南実さんもステキ。入学祝いに買ってもらおっかな」
 両親は運動オンチではないので、二人の娘もその気になればイイ線行く筈である。長女に限って言えば、これまでは親に反発していたので、スポーツの類もあえて避けていたフシはある。だが、晴れて進路が拓けたことで、それも解けてきていて、親譲りのいいところを見直す段階に入っていた。腕力と肺活量を鍛えればとりあえずいける。ことサックスに関しては、音の良し悪しは温度と湿度見合いなので、その辺もバッチリ。あとは表現力、そして指の細かな動きといったところか。
 南実の巧みな指遣いを見て、それが粒々を撰(え)り分けるのと無縁ではないことを知る初音である。すっかり魅了されてしまったようだ。

* * * * *

 三寒四温を繰り返し、春は着実に近づいてくる。スギ花粉が本格的に飛散するシーズンも容赦なく迫ってくる。花粉症に悩まされる前に何とか一曲。これが千歳の当面の目標である。花粉に追われる曲作りというのは、何ともやりきれない面もあるが、発奮するには好材料と前向きに捉えることとし、在宅作業の合間を縫っては、DTM(desk top music)に明け暮れている。演奏順を想定すると、アンコール二曲目か。つまり締めくくりに相応しい曲...。
 「石島姉妹、小松さん、奥様、そして姫様...」
 女性ばっかしというのが気になるが、とにかく皆の笑顔を思い出しながら、リセット直後の情景なんかを重ね合わせている。
 この新曲のおかげで、姫様とお会いするのもお預け中。今月は二十九日まであってちょっと得した気分に浸るも、その一日が逆にネックとなる。とにかくこのおまけの一日をフルに活用して仕上げてしまおう。そして出来たてを一番にお聴かせしよう。翌日の話だと言うのに、三月がやたら待ち遠しい。 南からの暖かな風が余計にソワソワさせてくれる。